左腕から春
椅子に座ってだらけていた。
ふと自分の左腕を見ると、足でいう内くるぶし(橈骨茎状突起)の辺りから、なにやらもさっと生えている。
冬の長袖を言い訳に剃毛をサボりすぎただろうかと、一応女性として気にしてよくよく見てみる。
しかし、これは体毛ではなかった。
どう見ても緑色の、春先に見かけるちいさな白詰草の葉のようなものが腕の一部にびっしりと生えている。
なぜだか私は、誰かと出かけている時にふと腕の剃り残しを見つけたような、そんな恥ずかしさと焦りを感じた。
私は急いで左腕に生えた緑を引き抜いた。
毛抜きで毛を抜いた時のように、根っこの弱い雑草を土から抜いた時のように、容易くずるりと根っこごとまとめて抜けた。
ゴミ箱に抜いた白詰草を捨てると、なんとなく気になって捨てたものをまじまじと見てみた。
根っこが、異様に長い。
ゴミ箱から1つつまみあげてみると、その根っこが、毛細血管のようだ、と思った。
その瞬間、ぞわり、と気味が悪くなって、すぐに手に持っていた葉っぱを捨てた。
なんだか、白詰草たちを抜いたことがしてはいけないことだった様な気がして、結局何も見なかったことにした。
そこで目が覚めた。少し、いやかなり、寝すぎた。